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zoom RSS 社会保障制度えの勧告(ワンデル勧告)

<<   作成日時 : 2009/03/20 20:26   >>

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社会保障制度えの勧告(一九四八年)
http://www.max.hi-ho.ne.jp/nvcc/230713a.HTM

社会保障制度えの勧告

米国社会保障制度調査団報告書

Report OF The Social Security Mission

厚 生 省

       序

画像 終戦後、わが国では、民主々義原則に基く基本的人権の確立ということが大きくとりあげられてきた。このことは、新憲法の中にもはつきりと示されているところである。この基本的人権の一つとして、国民の生存権の保障ということは、極めて重要な内容をなすものである。憲法第二十五条の「健康にして文化的な最低限度の生活」を保障することは、国民の福祉を図ることを目的とする国家の、当然の責務と考えられるのである。終戦後、社会保障の問題が、にわかに、国民の関心を呼び、重要な課題としてとりあげられるようになったのも、これに由来するものといえよう。又一方国民生活の実相は、次第に立直りつゝありとはいえ、敗戦経済の深刻なる影響をうけて、極めて窮迫した状態を示しておりこの点からも国民生活の確保はゆるがせにできないものがある。当省においては、国民の保健と福祉増進を図らなければならない使命に照らし、又一方前述のような観点からも、社会保障制度の推進に、日夜努力と研究を重ねてきた。生活保護法や児童福祉法の制定、保健衛生諸施策の推進、その他過般の社会保険制度の改正なども、それへの歩みを物語るものである。しかしながら、近代諸国にみられるような、完全な社会保障制度への途は、限られた資源、インフレその他日本の当面する諸困難や複雉化している現行諸制度との関係もあり、まことに容易ならざるものがあるのである。

 このときに当り、連合軍総司令部から、わが国社会保障制度について、勧告があつたことは、まことに意義重大なものがあり、感激に堪えないところである。本書は第一部の実情報告、第二部の勧告及附録の三部からなり、原文二百六十頁にわたる広汎なもので、現存諸制度の忌憚なき分析批判と勧告がなされている。又その関連するところは、独り当省行政の各部門にわたるのみでなく、関係各省にも跨り、極めて広汎で従つて国民生活にも密接なつながりを持つものである。かくて、本書は、これからの、日本社会保障計画について、一つの羅針盤ともなるべきものであろう。

 国民の健康と幸福を念願して仕事をしているわれわれは、国民と共に、すみやかなる社会保障制度の完成をも念願してやまない。そしてこれを文化日本への礎として、民生安定の基盤とも致したい。しかしながら、この制度の完成については、関係各省は勿論、国民各層を代表する各方面からも絶大なる協力と支援がなくては、到底望むことはできない。否、問題の大きく深く複雜であることと、その困難性を予想するならば国の総力を挙げて実現に邁進しなければ、到底これが完成を期しえないであろう。

 この訳書が厚生行政関係者、関係各省は勿論、広く各方面の有識各位に、社会保障の研究と実践の資料として役立ち、この完訳の普及を機に綜合的社会保障制度確立要望の気運が一段と高揚されることを希望しつゝ序とする。

 昭和二十三年十月

厚生次官 葛西嘉資


    連合軍最高司令部より日本政府への送達書

AG三一九、一(四八、七、一三)PH
SCAPIN五八一二―A

日本政府に対する覚書

  主題 日本社会保障に関する調査団報告の件

一、日本政府並びに各種民間団体よりの、社会保障に関する助言と指導要請に基き、その分野に於ける学識経験を有する人々より成る特別調査団が、調査及び検討を行ひ、日本国民の為の適正なる社会保障計画樹立の助けとなるべき結論並びに勧告の報告を提出する目的をもつて、連合軍最高司令官により、日本へ招碑せられたのである。

二、右調査団が提出した報告書の写しを、茲に日本の現存社会保障制度の改革計画の樹立並びに実行に際しての、日本国民の参考及び指導の書として授与する。民主々義思想に基き、国の資源の許す範囲に於て、綜合的且つ適切な社会保障制度を保持する事は、日本国民にとり、望ましい目標であると考へる。

三、報告書中、組織機構並びに運営責任の移譲に関する勧告は、この問題に対しての、一方途を示すものである。徹底的究明と実験に基き、この報告中に述べられたもの並びにその他の方途が、世界の諸方面に於て発展し、成功裡に適用され来つたのである。

四、社会保障実現の具体的方法並びに計画は、日本の現状にてらし、且つ又日本の社会に於て最も関係を有する人々の立場において、決定せらるべきである。

五、此の計画の根本的改革の実現の方法に関しては、総司令部関係各部局と日本政府関係各官庁との直接折衝を許可する。

最高司令官代理 
R・M レヴイー  
高級副官 陸軍大佐 

 マツカーサー元帥声明

 連合軍・極東派遣軍最高司令部
 APO 五〇〇

 社会保障制度調査団報告書は、日本国民に、社会保障の健全なる基礎を提供するための援助を行ふべく、連合軍・極東派遣軍最高司令部関係各部局、並びに日本政府関係各官庁及び係官の、研究・分析のための参考文書として、受納せられた。民主々義思想に基き、国の資源の範囲に於て、日本に広汎にして且つ適切な社会保障制度を保持する事は、承認せられたる占領目標である。

 社会保障制度調査団一行の、好意ある時と労力との奉仕に対し、謝意を表するものである。きわめて価値ある報告書に対し、連合軍各国よりも感謝するところである。

元帥・ダグラス マツカーサー 

社会保障調査団氏名  
団長 米合衆国社会保障行政部  
 ウイリアム・エイチ・ワンデル博士 
米合衆国公衆衛生部         
 バーネツト・エム・デーヴイス博士 
米合衆国公衆衛生部         
 ジヨセフ・ダブリユウ・マウンテイン博士
米合衆国社会保障行政部        
 バーケフ・エス・サンダース博士 
前米合衆国社会保障行政部    
 フランシス・エイ・ステイトン博士 


       序論並びに概要

 社会保障立法は、人生に於ける重大災難による処の経済的打撃から、個人を保護する為に企図せられるものである。かゝる災難とは、一時的或ひは恒久的勤労不能、又は不本意の失業に依る収入喪失、医療費の負担、家庭に於ける働き手の喪失、或ひは老齢に依る要扶助等である。かくの如き保護が個人に必要である所以は、何時かゝる損失を蒙むるか予期する事が出来ないし、又独力を以て事態に対処する事が出来ないからである。

 特に、国家が工業化せられ、生活の道が個人の力に依つて統御し得ない状態になるにつれ、経済的、政治的、並びに社会的機構の不安を防止し安寧を維持する方法としての社会立法が、極めて必要となつて来るのである。

 与論の支持に依る社会保障制度に依り、個人が、満足し得る程度の生活標準を維持して行く事が出来るならば、政府並びに一般社会に対しての信頼は、一層強められる事になるのである。

 社会保障立法は、又、自主性を発揮し企業を盛んならしめるに適切な環境を造り出す効果を持ち、従つて、民主々義の重要な要素となるのである。かゝる立法が、予期し得ざる出来事に際して個人を保護するが故に、個人自らの勤労、或ひは企業の結果が保護せられる事となり、平等の立場に立つて家事し、勤勉に努力し、自らの能力と腕前を充分に発揮する事は、無駄ではないものだと感じる様になるのである。

 安定せる政府と経済的混乱に依る不安の防止との関係は、新日本憲法第二十五条に認められ、かく述べられている。「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。国はすべての生活部面について社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進につとめなければならない。」

 日本に於ける社会保障制度は、数十年に亘り発展し、この国の経済的並びに社会的組織の重要なる一部となつているのである。一九四四年には全人口の三分の二以上が、何等かの社会保険制度に依って保護せられ、一般開業医の八十%が保険医であつた。病院における病床数の十%は保険団体が所有するか、又は、運営している病院に属するものであつた。一九四六年には、十七億円以上のものが、一時的並びに恒久的勤労不能の為とに支払はれ、二億五千万円以上が養老年金並びに遺家族手当として支払はれたのである。

 終戦後に於ては、生産と職業の大量減少を生じ、かゝる社会保険制度の適用範囲と、それに基く給付金額の急激な縮小を招来する様になった。然しながら、諸種の点から考へて見て、この制度はその後に於ても亦、進展を遂げ来つたのである。その最も重要なものは、一九四六年十月の生活保護法制定であつて、これに依る現在の給付は決して充分ではないが、世界に於て最も進歩せるものと考へ得べき、綜合的無差別の扶助組織を供与するものなのである。個々の社会保険制度についても、審査機関又は諮問審議会の設置等により調整が行はれて来た。船員保険制度の適用範囲は倍加せられ、事務処理の諸面に於ての改善も成し遂げられた。更に、議会に於ては日下、失業手当並びに保険制度の立法が考慮せられつゝあるのである。(訳註(一)参照)

 然しながら、社会保険制度が、急速に全面的再検討を要する事は、占領当初より明白な事であつたのであり、更に、此の国に於けるインフレーシヨンの昂進が一層、その必要を切実ならしめて来たのである。社会保障制度は、数十年の期間に亘つて確立せられ、その結果による社会保険の現存形態は、或る点に於ては重複せる保護を与へ、或る種の保険に於ては矛盾、撞着の結果収支つぐのはず、他種保険に於ては給付金支出に比して過剰収入をもたらしたのである。更に、保険制度に依る医療給付の発展は、公的・私的責任の混乱と、医療機関の非経済的使用を招来する結果ともなつた。全般に亘つて、非民主的制度に依り、与論に依るに非ずして政府の権威に依り運営せられ来つた。之等の制度を、事務機構並びに本質的給付の面から再編成する事に依つて、現存せる社会保険諸施設をより有効に使用すると共に、日本経済を健全なる基礎に置く事の一助ともなり、且つ又、民主々義制度を確立する結果ともなるであらう事は明らかである。

 終戦後に於ける経済状態、特に驚くべきインフレーシヨンは、一層重大な問題を含んでいる。インフレーシヨンの真の結果は、相殺的効果を持つものであつて、賃金、給与は物価と共に上り、従つて給与に基く保険収入と、最新賃金に比例して決定せられる給与も亦物価と共に騰るのである。然しながら一方に於ては、かゝる効果を限定する諸要素が存在しているのである。即ち、賃金は物価程に急速に飛躍的に上るものではない。かつ又、保険料を決定する最高月額賃金が法律に依つて制限せられているのであつて、厚生年金に於ては六百円、健康保険に於ては二千円、船員保険に於ては八千円に引き上げられ、失業保険に対しては五千百円が提案せられている。給付の額を決定するに用ひられる賃金表が、最高額に於て押へられている為に、保険料或ひは給付内容に関しての金額増加を、充分に反映し得ない結果をもたらしているのである。

 インフレーシヨンは、賃金水準がはるかに低い時代を基準とした給付の妥当性について、大きな問題を投げているのである。養老、廃疾年金の形態に於ける場合が之であつて、現在起りつゝあり又将来も起るであらうところの給付金額の増加調整が、必然的に、これまでの積立金をして、増大する給付責任を果すに全く不適当なものとしてしまつているのである。事実、インフレーシヨンが停止せられない限り、引き続いての積立金の蓄積は大きな疑問として再考せらるべきである。

 物価の昂騰は医療給付に依る社会保険制度、特に、国民健康保険制度の如く、保険収入が賃金と関係のないものに、直接の影響をもたらして居るのである。医師の要求する支払率の急騰、(薬品の欠乏と、入手し得る材料の価格昂騰が理由となつて)に対して、組合員側に於て必要な程度にまで保険料の引き上げを行ふ能力が欠けたり、或ひはやりたがらなかつたりする事の為に、多くの国民健康保険組合が活動不能状態に陥つた。医療給付のより経済的方法、即ち、組合が所有又は管理する診療所による途は、建築資材及び諸備品の欠乏と高価格の為に実行が困難であつた。此のインフレーシヨンは、通常の政府補助の面に於ても亦、困難を引き起しているのである。即ち、昂騰する物価が、支出に必要な程度にまで政府の歳入を保持する事を困難ならしめ、納税者側の、所特に対するより高率な課税への反対を増大せしめ、且つ亦、それ自身インフレ的傾向である赤字予算の危険を、増大する事となつたのである。

 占額初期に於て、(一)現存せる社会保障制度を強化且つ合理化し、健全なる経済的基礎の上に於て経済を消耗せしめず、インフレーシヨンによつて起る変動に耐へしめ、(二)社会保障による保護を、必要且つ適当と思はれる分野と人々へと拡張すべく指導し、(三)特に半官団体たる日本医療団の廃止の必要に鑑み、公的病院政策を展開すべく指導し、(四)全国民に対し医療給付を行ふべく、医療施設の最高度利用を計らしめ、(五)健康保険の運営に当つて、医療従事者を組織化する為、適当なる機能を発展せしめる為に、最高司令部の政策を決定する必要がある事が明白となつたのである。

 一九四六年初期に、最高司令官に対する労働諮問委員会が、日本に於ける社会保険制度の調査を行つた。同年五月付のその報告書によると、(一)現下の如きインフレーシヨン時代に於ても、社会保険制度を保持し、(二)此の制度の特徴たる医療給付を確保すべき健康保険並びに国民健康保険に対して、特別の措置を講じ、(三)現在適用外に在る人々にまで、範囲を拡大する事の研究をなす為に、何等かの方途を講ずべき事を勧告している。同委員会は、現存せる制度に於て協力調整が欠如し、この問題は根本的改革に依つてのみ効果をあげ得る事を指摘し、社会保険の徹底的改革が可能であり且つ又行はれねばならぬ事、更に、かゝる改革を企画する組織をたゞちに確立すべき事を具申したのである。

 時を同じくして、日本政府により労働者、事業主、指導的大学教授並びに政府官吏を委員とする社会保険制度調査会(訳註(二)参照)が設立せられたのであつた。此の調査会は日本に於ける保険制度を調査研究し、一九四七年初期に此の国の社会保険制度の再編成と範囲の拡張とを提案した。此の提案は、その後修正を加へられて一九四七年十月に公表せられたのである。同委員会による此の提案は、全世界の民主的国家に於ける最近五ケ年の、社会保障制度の発展情勢に強い影響を受けて居るものである。

 一九四七年三月、日本政府は医療制度審議会(訳註(三)参照)を設置し、医療並びに医学教育の改善を勧告せし日本医療団の財産の利用と処分方法に関しての案を浸出せしめ、更に健康保険の改善に必要なる研究をも行はしめたのであつた。

 昨年度に於て、医療費の連続的昂騰と、経済的独立の弱少保険単位の当然の欠陥とにより、国民健康保険組合一万中約四千が医療給付を中止し、あらゆる保険制度の積立金は致命的打撃を受けて、当初の機能を全く喪失するに至つた。かくして、現存制度を改革し、被保険者に医療給付を確保し、廃疾又は収入喪失の場合、老齢要扶助の場合、又は働き手の喪失の場合に於ての現金給付を保障せられる事が広く要望せられて来たのである。

 以上の如き状況を念頭に置いて、本社会保障調査団の来訪が考慮せられねばならぬ。本調査団は、問題を分析し勧告書作成の為に、近々六十日を有したに過ぎない。然し乍ら、公衆衛生福祉部並びに経済科学部労働課によつてすでになされたる調査、並びに日本側委員会の手による研究から多くの便宜を得たのである。本調査団は、東京附近並びに京都、神戸地区に於て、各々農村と都市との代表的保険医療施設の活動形態を視察する事が出来た。更に、事業主、被傭者、医師、組合連合会、社会保険制度調査会、医療制度審議会の代表者達とも懇談を行つた。此の故に本調査団は、現存せる社会保険制度の運営に閲し又それに関しての各種意見についても、入手し得る限りの材料を得たと考へるのである。

 本調査団は、勧告書作成に当り、二つの相反する思想に強い影響を受けたのである。一面に於ては、日本はほとんどあらゆる形態の社会保障について長期間の経験を有して居り、今や、国民に最低限度の生活と福祉とを保障する為に、民主々義的態度を以て、これ等の制度を充分に利用せんとする熱意を示しているのである。ところが他面に於ては、過去の経験に於て根本的弱点を暴露し、特に、いかなる社会保険制度に於てもその成功に欠くべからざる事務運営関係に欠点を表はしたのである。

 此の事と、現下の日本が当面する物質的、経済的並びに技術的資源の状態とを思ひ合せるならば、社会保障制度の健全なる運営の展開と改革との責務を担ふた日本政府が、熟慮せる上での行動をとるべく、四囲より促がされている状態にある事が明白である。

訳註
 (一)失業手当法及び失業保険法は、第一回国会において成立をみ、いづれも、昭和二十二年十二月一日附により、前者は、昭和二十二年法律第一四五号、後者は、同第一四六号をもつて公布せられ、同年十一月一日に遡つて適用せられた。

 (二)社会保険制度調査会は、昭和二十一年三月二十九日附勅令第一六七号による官制に基き、設置せられたものであつて、会長一名、及び委員三十名以内を、厚生大臣の奏請に依り内閣に於て命ずるものであり、厚生大臣の監督に属し、その諮問に応じて社会保険に関する事項を調査審議する。

 (三)医療制度審議会は、昭和二十一年四月十一日、厚生大臣により設置せられ、会長に厚生大臣、委員に医界、国会、報導機関、各代表並びに学識経験者約五十名をもつて組織せられた。その後、国会、報導機関代表は辞退せられ、委員数も三十数名に減少するに至つた。


   勧告の概要

 社会保障制度調査団の勧告は、次の如く要約せられるものである。

一、工業、商業、船員並びに政府職員等の如く、老齢、遺族、勤労不能(並びに失業)による賃金喪失に対する現行強制加入保険制度の適用を受ける人々に対しては、一本の組織による制度を作る事。

 a 老齢給付に関しては、六十歳(女子は出来得べくば五十五歳)よりとし、十年以上の被保険者に対し、従来の賃金、勤続年数、扶養家族数に応じて給付する事。現在給付中の恩給は、新制度に組み代へられるべき事。現制度に於て、認められている勤務年数は、新制度による資格決定の際にそのまま用ひられる事。現存の共済組合或ひは船員保険制度に依る給付は、新制度に引き継がれる建前であるので、その積立金も引継ぎを行ふ事。

 b 廃疾給付に関しては、公傷病の場合は適用範囲の資格制限の必要はない。公傷病以外の場合は、老齢給付の場合と同様か、或ひはそれ以下の勤続年数の場合は最近まで労働に従事して居たことを証明し得るときにのみ給付する。更に、扶養家族への手当の給付をも行ふ。

 c 遺族給付に関しては、公傷病の場合は、勤続年数に関係なく行ふが、公傷病以外による死亡の場合は、廃疾保険給付と同等の資格の場合に与へる事。

 d 勤労不能或ひは失業による一時的賃金喪失に対する給付に関しては、現に労務に従事する者に対して支払ふ事。公傷病外の勤労不能と失業の場合は同率とする事。公傷病による勤労不能に対しては、高率の給付を行ふ。家族給付をも行ふ事。勤労婦人の場合は、出産に依る賃金喪失の補償をも行ふ事。

 e 被保険者とその家族に対する医療に関しては、全額給付を行ふ。出産に伴ふ臨時出費に対しての現金給付による出産手当金を労務者の妻及び勤労婦人に給付する事。現行の組合による運営方法を、費用の平均化を計る為に基金をプール化することに依り、経済的に強化すると共に、組合をして医師及び医療施設との契約を為さしむるために、より多くの権限を与へ、政府の監督を強化し、政府管掌の保険事務を地方移譲し、医師をして保険医たる事の自由を付与する等の措置により事務運営を強化すべき事。現行の一点単価報酬制度に代る可き医師への支払ひ方法を充分に研究すべき事。

 五人以下の労務者による事業内従事者も、五人以上の労務者による事業に於けるそれと同様の保護を受くべき事。

 扶養家族が、一人の働き手に依存するところから来る経済的不安定は現在に於ては、日本の産業界に於ける給与組織によると、家族手当を一般給与に組み入れる事によつて解決を計つている。しかし乍らかゝる手当は給与から除外し、政府が同一基準による家族手当支給の責任を負ふ可き事を提議する。かゝる案を採用する事によつて、保険金受取人に払はるべき家族給付は被傭者に対する家族手当と一致したものでなければならぬ。

 以上に述べた如き保険に関しては、一本の組織のもとに、一種の保障税を使用者、被傭者双方から取り、事業主も被傭者もたゞ一つの事務所と交渉をすれば事足りる様にし、形式手続きを簡素化し、事務費の削減を計らなければならない。しかし乍ら、現存の又は将来出来る任意組合が、基本的計画に依る給付に付け加へての現金給付を行ふ事を、禁止したり勧告したりする可きだと云ふのではない。

 かゝる計画による被保険者は約七百五十万である。その内訳は五百二十万の商工業従事者、二百三十万の官吏並びに官営事業従事者である。被保険者の家族並びに遺族への給付をも含む事であるから、保護を受ける総人員は、約二千五百万人と考へられる。

二、現在強制社会保険制度の対象とならず、前払ひ方式による医療給付の保護――大部分任意的基礎の下に――を受けつゝある人々に対しては、地方庁、市町村の決議に基き現行制度を強化すべき事。

 a 他種の健康保険制度の適用を受けざる人々全部を包含し得る様、投票により議決を行ふ。

 b 保険の原理適用を可能ならしむる為、多数の人々を参加せしめる。

 c 全額医療給付をなす様にし、被保険者個人の支出をなさしめない様にする。

 d 給付に対しての正当な支払ひをなし得る如き保険収入の途を講じる。

 e 地方庁の公衆衛生活動を、市町村の前払ひ式保険制度運営に織り込ませて行く。

 f かゝる市町村の健康保険制度に対しては、地方負担の割合に応じて国庫補助を医療給付費の一部として行ひ、その場合に個人収入を基準とする各地方の富源とにらみ合せて行ふ事。公的医療機関の設立費並びに経常費として与へられる資金は政府補助の一部と見なさるべき事。


三、全日本国民に対し、特に現行の前払式制度による医療制度の被保険者に対しては

 a 病院の公的奉仕の性格を認識せしめる事。

 b 単一の綜合的計画により全国的病院組織を確立する事。

 c 病院の設立費用は、公金により、主として国庫負担となす事。然し乍ら、出来得る限り地方自治を許容し、所在地の必要に応じての施設を作る様獎励する事。

 d 病院の経常費の大部分は、公金によりまかなはるべき事。

 e 病院の最高方針は、医療給付改善を目的とすべき事。

 f 認可制度により、病院の標準を高める事。

 g 適当な食糧割当を、病院に対し行ふ事。

 h 漸進的に、助産活動を公共団体による機能として 取り入れて行く事。

 i 国の公衆衛生活動は、政府、地方庁、市町村を通じての一貫せる行政により運営せられるべきである。然し乍ら、かゝる種類の活動は健康保険活動と充分の協力により行はれなければならない。適当と思はれる場合には、公衆衛生活動に従事する保健婦をして市町村健康保険制度に参加せしめる事も出来るであらう。たゞしかゝる保健婦の人事を地方庁当事者が行ふ事によつて、公衆衛生計画遂行に一貫性を持たせなければならない。

四、社会保険による保護を受けていない者、或ひは受けていても充分でない者に対して、生活保護法による無差別扶助は適当である。此の制度を寸断する如き事は、考慮すべきでない。

五、事務処理機構が改善せられねばならない。

 a 国会並びに責任ある政府行政機関とに対して、社会保障に関しての企画、政策決定、法律制定の面に於ての勧告をなす為に、内閣と同列の諮問機関を設置する事。

 b 日本に於ける社会保障制度運営に関しても全責任と権限とを、国会が政府内の一省に移譲する事。此の場合厚生省を選ぶ事が最も適当と考へられる。かゝる移譲に際しては、民主的方式に基く地方分散方式を採り、地方諮問機関を活用する様指示すべき事。更に、省内に於ける全社会保障制度機能が統一せらるゝ様指導する事。運営上の全責任と最後的権能は厚生省の手に保持すべき事。

 c 半司法機関的性格の独立審査機関を確立し、社会保険適用に関しての決定を欲する場合は、その当事者からの訴願の途を開き、更に、最後決定に関しては正規の法廷への上訴の途をも開く事。

 かゝる勧告とその基礎づけとなるべき諸点とは、本報告書の第二部に詳述せられてある。第一部は現行の社会保障制度、医療、公衆衛生活動並びにそれ等に関連する諸機関に関して述べられているものである。


 此の報告書の執筆に際しては、本調査団は公衆衛生福祉部の各課特に社会保障課から貴重なる援助と建設的批判とを受けた。社会保障課は本報告書の第一部の大部分を用意したものである。


    第 一 部 現行社会保障制度概観

 十九世紀の後半、近代国家としての日本の出現と共に、社会保障の面を包含しての数多くの西洋の制度が、急激に取入れられたのである。特に、社会保障の面についての受入れ事実は、外国の法文をたゞ翻訳して出来上つただけのこの国の法律に、極めてよく反映している。しかもその法律は、基本理念の理解なしにいきなり採用せられ実施されたものなのである。かゝるが故に、本報告書の勧告に関しての参照根拠をしめすと共に、外国の社会保障制度との比較をもなし得るため、以下に法規の概要並びにその運営実状につき記すこととする。

 現行制度の概要は次の如くである。

 A 社会保険制度

  一、適用範囲、保険給付、酵出額及事務費に関する
   法規規定、機構、各制度に関する補充的説明、及
   びあたへられる保護の一覽表教程。

  二、法律規定に関する考察。

  三、社会保険運営状況の分析。

 B 公共扶助及失業救済制度。

  一、公共扶助――生活保護法。

  二、公共事業。

 C 公衆衛生活動及び医療並に医療機関


A 社会保険制度

 社会保険に関する法的措置の最も初期の記録は、官吏に対する恩給制度を始めた、明治四年の勅令であるやうに思はれる。最初、公務疾病に重点をおいた社会保険保護は、明治三十八年の鉱業法、明治四十四年の工場法、明治四十年の鉄道共済組合制定勅令第一二七号、明治三十二年の船員法及び商法などの勅令、法律によつて、現在の法的機構の基礎となつた初期の立法をつくり、次第に広く一般国民の各層にまで拡充されて行つたのである。

 過去に於ては、すべての社会保険立法は、各省を通じ内閣に於て行はれた。各省は、その関係層の特殊利益を代表して、それ自体に特有な要求と、明確な独特の必要とに応ずるための法規を提案し、その施行にあたつては、各省自体がこれを行ふか、または、これらの特殊利益を代表する各種の民間及び半官団体に委託した。一般国民を代表する政府、或ひはその組織分子としての各省といふ観念は、さらに存在してなかつたのである。

 内閣は、かゝる機能を遂行すべき当然の機関であつたにもかゝわらず、社会保険に関しては、綜合、調整はほとんど行はなかつたのである。かくて同じ種類の災害に対する取扱ひ細則、並びに各種被保険者層に対する保護に大きな差異が生じた。行政的責任及び機能についても、政府機関の中央及び地方にまたがり、数千の半官及び民間団体、医師団体、及び多数の諮問及び調査委員会に分散せられ、それに対する調整機関は皆無の有様であつたのである。

 一、図表及概要

 附属図表により‥‥‥‥‥‥


     第 二 部  勧 告 書

A 社会保障制度

 一、 総  論

 日本人は、終戦直後の時期に於て、社会保障制度樹立にあたり、二つの重要な問題を考慮せざるを得なかつたのである。即ち、一つは国全体としての社会保障制度の目標は何であるか、即ち、如何なる人々にどのやうな保障を与へる可きかといふこと、もう一つは、その目標に速かに達するためには、どういふ方法が日本の現状に照して実行可能であるかといふ事である。

 民主々義諸国に於ける社会保障思想の現段階に於ては、第一の問題に対する解答は簡単である。欠乏からの自由が、世界中の自由人の基本的目標である。そして、その目標に達し得る成功の程度が、その国家の健全性のはかりとなるのである。更に具体的に云ふならば、健全な経済組織は、働き得る者によき仕事を与へ、老人、失業者、傷痍者、幼少年者に、生活の保護を与へる事によつて、凡ての人に対し、生命と健康を維持するに必要な途を供給すべきであるといふ事が、一般に一致している意見なのである。

 社会保険制度調査会の報告会は、民主々義の線に沿ふて、日本にとつての適当な社会保障制度の素描を行つているものである。この報告書が日本に於ける種々の社会層の意見を代表して居り、而も全員一致で可決せられ、且亦、日本人への欠乏に対する保障を明白な目的としている点に於て、極めて意義が深いのである。

 この報告書は、老齢、廃疾、失業、疾病、傷害に対する保険、出産に要する諸出費、児童の最低生活保護、葬祭費及び寡婦、孤児を対象とする遺族手当等を網羅する一大国家的社会保障制度を提案しているのである。それに依れば国民は一人残らず、全額の医療給付を受ける。更にこの案に依ると、受給者の前収入に関係なく、均一の現金給付をも考へて居る。業務に帰因する傷害及び疾病に付ては、別個の制度に依る様な考へ方になつてつくられている。この社会保障案の財政面に就いては何等特に論及されていないが、委員達の考へているところは、使用主、被庸着からの保険料金と自家営業のもので保険の受益者からの保険料金―― 収入に比例した掛金――を含む一つの幅の広い収入源をもつといふ点である。保険給付金の大部分と、事務費とは、一般会計の部から賄はれる様提案されている。現在ある種々の制度の凡ては、一つの包括的な制度に綜合されるべきであると委員達は提唱したのである。(報告書は附録参照。)

 調査会の報告書に述べられている様に目標が確立せられると、第二の、適当な社会保障制度を樹立するためには、現在如何なる方法が実行可能であるかといふ、極めて難かしい問題が起るのである。人並みの健康な生活をする為めの最低限度の保護についての観念が明確にせられたとしても、今直ちに、その最低限度の線まで引上げる方途はここにあると、指摘する事すら大変な仕事である。然しながら、日本人自身も、又日本の経済的、社会的現状を織るものは誰でも、制約せられた部分的なものから着手しなければならないといふ事は認めている。日本側の報告書自身もその案の実行については、部分的に行ひ、日本の国家経済の現状、長期経済復興再建計画及び財政の負担能力の観点から考慮せられねばならぬと述べている。調査会は、事務運営の問題に付ては、具体的な案を示していない。また、現在の社会保険制度を統合して単一制度にする方法に付ても、何等格別の考慮を払つていない。ただ給与組織、特に家族手当の問題が、社会保障案実施の先決条件として合理化されねばならない点に注意をむけている。更に、医療とその施設の組織と運営の問題が、広範囲な制度の運営に於て重要なものである事をも強調している。

基本的制約要素。
 現在の日本の情勢下に於ては、かゝる計画の即時採用を制約する数個の要素が存在して居るのである。従つて、具体的方途への勧告を行ふ前に、これらの要素について考慮する事が極めて肝要となつて来る。これを列挙するならば次の如きものである。(一)生産の不振、(二)通貨膨脹及び其の結果より生じた将来に対する不安に原因する価値関係の瓦解、(三)剖現在行はれつゝある行政組織の大改革、(四)現行保険制度の危機状態。この様な要素の一つ一つについて充分の検討を行ふことは、社会保障についてのよりよき制度を樹立するために、直ちに採らる可き適切な方法を決定する上に影響を及ぼすので、極めて重要な事である。

収入の低減と生産の不振。
 国民所得の大体の水準に就ての信頼すべき資料が現在無いが、水準が低いといふ事は疑ひがない。昭和二十二年九月現在の調査に基づく生産量は、昭和五年 ――九年に至る平均水準の約四割五分であつた。貸金は昭和五年――九年に至る平均水準の五割にも過ぎないと見積られる。その算出資料の大半は非常に大ざつばなものであるが、その資料の執れも、日本経済は現在やうやく糊口をしのぐ水準にあるといふ事を強調している。深酷な生活の危機は米国からの援助によつてのみ回避して来たのである。それ処か、過去一カ年半に亘つて大いに改善されて来た。将来も一層の改善を期待し待るのであるが、これ以上の改善はその歩みが非常に漸進的になるであらう。

 広範囲の社会保障をその国民に適用し得る国の能力は、適度の生産力と収入が水準に到達し、更にそれを維持し得る国の能力にかゝつているのである。例へば、英国に於ける制度は、英国経済が少くとも戦前と同程度の生産力を有し得る様になり、国民所得に於ても将来一段の上昇を予期して、その前提の上に立つているのである。適切な配分が行はれ、国民のすべてに妥当な生活の保障を与へ得る程の国の所得がある時にこそ、始めて社会保険制度が危険率の共同負担によつて、全国民に適当な保障を与へる最も満足すべき制度となるのである。

 これと反対に、若し国民経済が辛うじて生きて行く程度に近い時は、経済危機に際して保護される権利といふ原則に基づいて出来た社会保険は、その目的を到底有効に果し得ないであろう。病院中又は失職中に喪失した貸金の補償として支払はれる保険給付は、受益者たる労働者が、その日暮しの程度の貸金を得ている場合には、到底生活を支へ得る額には達しないのである。この事は、保険給付金は以前に得ていた賃金を基礎にしてのパーセンテージによつて定める習慣なので、その給付金は将来よい仕事のあつた時によろこんで働きに復帰する為の獎励となる程度の金額であつて貸金全額より少いわけである。そこで必要に応じての救済制度からの保護金に依つて、不充分な保険給付を補ふ必要が起つて来る。一方、収入を失つた場合には保険制度の下に給付を受けられる資格のある者に凡て権利として与へられる事になると、大抵の場合他に頼りにする財源をもつている人の所にまで支給される事がある。最低限の経済に依り賄はれている様な現代に於ては、最低生活以下に属する個人或ひは家族の必要度を調査し、その実際の要求に基いて行ふ救済制度に重点をおく方が必要な事である。

 然し乍ら、かく述べたからといつて、現存の種々の保護形態を持続又は強化する必要が無いと云ふ意味ではない。日本の生産力は、究極に於ては戦前の水準と同様にまで恢復するであらうし、以前には生産力の大きな部分が軍需工業部門に向けられていた事実を考へれば、個人の純収入が戦前よりも却つて多くなると期待しても間違ひではない筈である。かくして再び、収入と生活費との間に余裕が生じて来る。この様な将来に対する見通しを持つているからには、今は非常の事態であるからといつて、長年に捗る立法的、行政的努力に依つてかち得た社会保険の進歩発達を犠牲にしてしまふとか、或ひは、被保険者の、社会保険に依つて保障されているといふ安堵感を、おぴやかす如きは、賢明な策とは云ひ難いであらう。

 現在の経済状態より必然的に起る社会保障制度の拡充に対する制約は、現金給付にのみ適用されるものである点にも、注目す可きである。即ち医療給付、或ひは医療費支払ひの計画にはかゝる制約は及ぼされないといふ事である。医療問題の明確な性格については、別に他章に於て論述せられるであらう。

 生産力の低下が、社会保険による保護内容に全面的制約をなす一方、政府の収支予算の現状からも、一層はつきりした制約を受けるのである。一般会計から相当額の政府支出を受けて運用される綜合的社会保障制度に関しての理論の当否は別として、実際に、果して必要な歳入を満たすに充分な額まで徴税財源を求め得るかどうかは大きな問題である。

通貨膨脹問題。
 社会保険制度の満足な運営を期する為には、かなりの程度の経済安定がなくてはならない。物価と生活費に於けるインフレーションの勢ひは、今迄の就職中に待た収入に基づいて算定せられる保険給付を、無意義なものにしてしまふ。此の様な算定によつて、後になつてなされる給付は、基礎期間と給付支給期間との間に於ける円貨の価値の下落のために、殆んど購買力を持たなくなる。現存の産業従事者及び官公吏の保険制度が、かゝる貨幣価値下落に因る窮境に悩んでいるのである。

 かゝる経済的現状にあつて、組織的数理的基礎に基づく保障制度を賄なつて行く事は、実状に即しているとはいへない。短期変動は、失業保険及び一時廃疾保険の様な現行の保険制度に対し上述の様な問題をひき起しているが、長期計画による社会保険の経営は、更に重大な問題を捏起するのである。政府職員を対象とする共済組合の場合とか、厚生年金保険の下に給付を期待して蓄積された準備金等は、保険保護の目的を達するには不適当になつてしまつているのである。従つて、上昇した貸金と物価の水準に合致するやうに、保険給付額の引上げ調整が行はれなければならない。処で、そうなると、現在の積立金の価値が非常に少ないものになつて来る。かゝる情勢下にあつて積立基金にょる方式の保険制度を、運営して行く事については、甚だ疑がはしいのである。

政府行政機構改革。
 終戦以来、広範囲にわたる政府機構の改革が行はれて来た。権力と権威は天皇から国民へと流れると云ふ基本的観念を捨てて、究極の権威は国民にあると云ふ原則を以て代へるために、広範囲にわたる改革が、中央官庁、地方公共団体の行政組織及び運営の上になされつゝあるのである。司令部は地方自治の発達を促進せしめ、中央政府の責任と活動を地方に分散し発展せしめる事を獎励して来た。かくの如くして行はれる改革のめざす、政府に対する観念の変化に就き説明する事は、仲々むづかしい事なのである。更に地方中央政府を通じての必要な再教育、再調整の仕事に関しての理解をつたへる事も、極めてむづかしいことであるが、改革が必要であるといふ事は、日本人と話をするならば一寸接しただけでも明らかなことである。此の事は、社会保障制度の広範囲な改革を行ふ時期につき、特に大規模な綜合包括的な適用範囲による保険制度の樹立の時期について、愼重に考慮する必要を物語つているのである。若しも此の事業が崩壊すべきでなく、且つ其の努力を無効にするやうなものでないとすれば、行政的なカと安定とを必要とするが如き程度に於て主要なる調整及び拡張が全行政機構について加へらるべきである。

現行の制度の状態。
 現在日本に行はれている社会保険制度が、若ししつかりとした基礎の上に樹てられていたとするならば、完全な制度に向つて良いスタートをなしていたであらう。不幸にして健全な基礎に立つていない現状である。昭和十六年施行の厚生年金保険法は、老齢及び商工業労働者の老齢と廃疾の長期保険について規定を定めて居るものである。然し乍ら今まで述べて来た様な通貨膨脹が財政的基礎を薄弱化してしまつたので、現在は雇主も被保険者も殆んど此の制度を信用して居ない状態なのである。従つて、政府年金及び共済組合に関しての制度は、その当初の目的を達せさせる為には、大きな調整を必要としているのである。健康保険、特に政府管掌の部分は、被保険者に対してその目的とする保護を与へては居ないのである。国民健康保険に於ては、事態はもつと悪化している。一方の国民健康保険組合の大体四割が活動を中止している。活発にやつてきた組合は、大部分が診療所を設立して安い医療費で運営出来ている為なのである。これ等の組合のあるものは、最初支払はんと企図した医療費の半分以下を与へ得るに過ぎない。

 現行の制度にいろいろの欠点があるのに加へて、目下国会に於て審議中の失業保険制度を、確固とした運営の見通しの基礎の上に設立するといふ事、更に、健康保険及び厚生年金保険の中にある業務傷病に関する保険規定を、新らしい労働者災害補償保険により、労働者の補償保険行政に、移管するといふ事なども、極めてむづかしい問題である。現存の断片的制度から、一つの秩序だつた組織を引き出すといふ事は、それ自体、政府にとつて消化し切れない程の大きな仕事なのである。


 二、健康保険以外の社会保障制度に対する勧告の基礎

 前述の根本情勢よりして強く考へられる処は、現存の保険制度が目的としている保護を完成するための効果的な組織と、事務運営の体勢とをととのへる事が、直ちになさるべき方策であるといふ事である。この目標は日本の調査会による目標と、実質的には差異がないやうである。調査会の報告を精読すると明らかなやうに、その提案は効果的に実施されるとするならば日本人に社会保障の面に於てただちに現行の制度を拡張する――後述の医療費 註の問題を除いては、――のではないといふのである。然し乍ら、現行制度の合理化と改善とは、時と事情の許す限り、且つ日本国民が希望する限り、将来の発展の基礎を成す結果を齎す為に、なさるべき根本事なのである。かゝる目的をもつて、企画と立法に関しての基礎となるべき論議を展開し、左の如く勧告をなすのである。
  註、本報告書第一部の現行制度概要と附録B調査会報告書の第一段階を比較せよ。

 a、予想される統合制度

 現存の強制保険制度は、‥‥‥‥‥‥

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社会保障制度えの勧告(ワンデル勧告) 医師の一分/BIGLOBEウェブリブログ
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